【読書記録】『人間の建設』著・小林秀雄、岡潔

小林秀雄と岡潔について

 本書『人間の建設』についてお話する前に、著者である小林秀雄と岡潔という人物について簡単にまとめます。

 小林秀雄(1902-1983)は日本を代表する文芸評論家の一人です。
 東京帝国大学仏文科卒業後、1929年、雑誌『改造』の懸賞評論『様々なる意匠』で文壇にデビューした後、翌30年4月から1年間にわたって『文芸春秋』に文芸時評を連載し、批評家としての地位を確立しました。
 芸術派の理論家として鋭い知性、感受性と独自の文体で創造批評を確立し、昭和の文壇に大きな影響を与えた人物です。日本芸術院会員務め、文化勲章を受章しています。

 一方で、岡潔(1901-1978)は日本数学史上最大の数学者です。
 京都帝国大学を卒業後、京大助教授を経てパリに留学、帰国後はいくつかの大学で教鞭をとり、多変数解析函数論において世界中の数学者が挫折した「三つの大問題」を一人で全て解決した人物しています。
 こちらも文化勲章を受章していて、数学者でありながら「春宵十話」「日本のこころ」などの多くの随筆を残しています。

 本書『人間の建設』は同じ昭和の時代を生きた天才たちによる対談の様子を書籍としてまとめたものです。

『人間の建設』

 文系と理系の最高峰ともいえる2人の対談は、何かの目的をもって行われたものではありません。背表紙の要旨にもある通り、これはいってしまえば「雑談」です。

 しかし、圧倒的な「知の巨人」たちによる雑談は、芸術・文学・科学・哲学など、ありとあらゆる「知」へと話が展開していきます。
 その知識の断片は、単にそれ自体についての議論に留まらず、学問そのものについてや教育、国家、思想などについてありとあらゆる両者の考えを交わし合う、そんな雑談です。

 私が感銘を受けたのは、両者は両極に存在するようにみえる分野から「学び」を始めたにもかかわらず、いくつかの点で同じ〝思想〟を持っているということです。
 異なる出発点から始まり、自らの主とする分野以外にも精通した2人の〝思想〟の終着点が非常によく似ているというのは実に興味深い点です。

 2人の「雑談」から、「知識とは蓄えるものではない」ということ、「学問に境界はない」ということを改めて感じさせられました。
 単に記憶として残しているのではなく、そこに自分自身の意思と意見を持たせ、あらゆる領域を跨いで世の中のありとあらゆる事物に対してそれを適用しているのです。
 そんな彼らだからこそ、それぞれ分野で大きな功績を成し、非常に知的で高度な「雑談」を完成させることができるのでしょう。

 最後に。私が特に興味を持ったのは両者がともに「教育」に対しての強い思いを持っているということです。
 本書では現代の教育にも通じる根本的な教育の問題点について何度か言及しており、「教育」が本書のタイトルでもある『人間の建設』に大きな役割を果たしていることを感じ取ることができます。

 さらに言えば、教育の基盤となる「学び」や「学問」に対しての姿勢や考え方といったものを根本から考えさせられるそんな「雑談」ともいえます。
 多くを考え抜いてきた2人だからこそ辿り着ける極致を感じ取ることができる本書を皆さんも手に取ってみてはいかがでしょうか。

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