【読書記録】『ストーリーが世界を滅ぼす』著・ジョナサン・ゴッドシャル

 「物語」が世界を支配する。

 本書のテーマは、「ストーリーテラー」――つまり「物語を語る人」が、どれほど私たちの思考や行動を支配しているか、という点にあります。

 ここで言う「物語」とは、映画や小説といった創作物に限りません。事実や現実はもちろん、時には嘘や誤情報さえも人を信じ込ませる強い力を持つ「物語」です。

 人間は「物語」に支配されやすい存在です。しかもそのほとんどは無意識のうちに作用しており、情報が溢れるこれからの社会を生き抜くために、その仕組みを理解することは欠かせません。

 最も典型的な「物語」が、「正義」と「悪」という二元的な構図です。私たちは自分たちを「正義」と信じ、その外側に必ず「悪」が存在すると考える――その思考自体が一つの物語なのです。

 戦時下には、敵国を悪と断じ、自国の戦争を正当化するプロパガンダ映画が人々を扇動しました。これはまさに「物語」の力の象徴でしょう。
 そして重要なのは、そうしたことが過去や特定の状況下に限られた話ではなく、今もなおニュースや報道の形で私たちを支配しているということです。

 報道がしばしばネガティブでドラマチックに構成されるのも、人が「物語」に強く反応するからです。
 さらにいえば、私たち自身も無意識に「物語」を作ります。「生活がうまくいかないのは『奴ら』のせいだ」「国民が苦しいのは政府のせいだ」――こうした語り口もまた、真偽はともかくとして自分で紡いだ物語なのです。

 著者が訴えるのは、「物語」そのものを悪と断罪することではありません。むしろ、その圧倒的な力を理解しなければ、私たちは知らぬ間に支配され続けてしまう、という警鐘です。

 宗教や思想、陰謀論やフェイクニュース、国家間の情報戦に至るまで――人を信じ込ませるには、必ず優れた物語が必要です。しかし多くの人々は、その影響を過小評価し、日常の中で支配されていることに気付いていません。

「物語」の力を理解すること。それは、私たちが無意識に翻弄され、破滅へと向かうのを防ぐための第一歩です。本書はそのための確かな道標として最高の一冊になるでしょう。

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